あんたの人生ギリギリセーフ

20歳のとき、ずいぶん年上の人の世話になっていた。その生活は贅沢で、毎日がパーティーのようだった。周囲に集まる人たちも若い私をお姫様扱いするし、なんでも買える。高いお酒にコース料理。そんな生活に、一年で飽きた。
前にも書いたように私はファッションやメイクに興味が持てない。これは子供の頃からそうだった。だからファッション雑誌も一度きりしか買ったことがなく、どこを読めばいいのかわからなかった。そんなわたしにいろんな洋服を買ってくれたけどどれを着ても同じようなものだという感想しか持てなかった。

その人との別れはひどいものだった。夜逃げ同然で身一つで東京に帰った。ほどなくして現在の夫である彼氏と出会ってそれまでとは正反対の暮らしをした。カップラーメンを啜り、ファミレスで残金を気にしながら食べ、夜はラブホか車中泊。シャワーだけ借りに友達の家を頼ったこともあった。
もし、あのまま愛人をしていたら46歳のいま、どんな生活をしているんだろう。時々思う。相手は60を超えているはずだ。
いまわたしは貧乏ではないけど裕福でもない。不満をあげたらそれなりに出てくるし、夫に改善してほしいと思うこともいくつかある。でも、毎日帰宅するなり軽口を叩きながら笑って、彼が湯船に浸かるときにニュースを読み上げていると、ああよかったなあと思うのだ。
ある人から、あんたの人生ギリギリセーフ、と言われたことがある。今思い出してみると本当にそうだった。
まあ、セーフだからよし!なのだ。